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温もり

温もり

司堂和姫様
温もり

司堂和姫様



「しーまこさんっ。ごきげんよう♪」
 志摩子は教室に入ってくるその人物と挨拶を交わした。彼女は何だかごきげんだ。
「ごきげんよう、祐巳さん。ところで何だか機嫌が良いけれど、何かあったの?」
 志摩子は未だ浮かれている彼女……祐巳さんにそう訊ねた。
「え? ……わかる?」
 恥ずかしかったのか、祐巳さんは頬を紅く染めてそう言った。祐巳さんの表情はよく変
わるからその時の気分がすぐわかる。
「それでどうしたの?」
 何となくわかっていたが、志摩子は敢えて訊いた。
「えへへ、今日は朝一番にお姉さまと逢ったの」
 ……ああ、やっぱり。なぜ、わかっていることなのに訊いてしまうんだろう。
「そしてタイを直してもらって一緒に登校したの?」
「え!? どうしてわかるのっ?」
「ふふっ。祐巳さんって本当、百面相が得意ね」
「……もうっ、志摩子さんの意地悪……」
 志摩子の言葉に祐巳さんは頬を膨らませて拗ねてしまった。……祐巳さんにとってこの
会話は、いつものように他愛のない会話なんだろう。でも、志摩子にとって祐巳さんと話
すことはこれ以上ない幸せなことだった。だから、祐巳さんが誰かのことでこんなに喜ぶ
と、志摩子の心は少し痛む。だって、志摩子にとって祐巳さんとは、友達以上の『好き』
であったから――。

 志摩子は授業中、ずっと祐巳さんの背中を見ていた。祐巳さんの席は志摩子より前だか
ら、黒板を見るふりをすればバレない。見ていてあきない。一日中、祐巳さんを見ていて
も絶対にあきない。それよりも、もっと正面から見たいと思った。でも、それはそれでき
っと恥ずかしくて、まともに見れないんだろう。現に祐巳さんと話をしている時、先に視
線を逸らすのは決まって志摩子からだった。
 祐巳さんをこういう気持ちで見始めたのはいつからだろう……。今でこそこうやって祐
巳さんと親友になっているが、山百合会に入る前はごく普通のクラスメイトだった。そう、
祐巳さんを好きになったのは彼女が祥子さまの妹になって、山百合会の一員になってから
だった。それまでは本当にクラスの一員にすぎなかった。そして学園祭の前日、彼女のこ
とがよくわかった。教室で見ていた時はごく平凡な少女だったけど、その日起こった祥子
さまと柏木さんのもめごとを解決したのは祐巳さんだ。あの日初めて祐巳さんという人が
どういう人なのかわかった。他にも黄薔薇革命の時やお姉さまの小説出版事件。祐巳さん
はことごとく解決の道を進んでいった。ここまで他人のことに気を使うことが出来るのは
祐巳さんくらいだろう。そして、選挙の時。なかなか立候補しない志摩子に、祐巳さんは
心配になって声を掛けてくれた。あんなに親身になってくれた祐巳さんを私は……。たぶ
んその時からだ。志摩子が祐巳さんを友だち以上に好きと思ったのは。――私のこの気持
ちは許されないだろうか? 彼女を心から愛するということは……。

休み時間になると祐巳さんが声を掛けてきた。
「志摩子さん。ご飯一緒に食べよ?」
 祐巳さんが山百合会に入ってから、志摩子は祐巳さんと昼ご飯を食べるようになってい
た。もちろん、断るわけがない。
「ええ、いいわ。どこで食べましょうか」
「ん~、志摩子さんの好きなところでいいよ」
 逆にそう言われてしまい、志摩子は困った。いつもは銀杏の木の下で食べることが多い。
しかし、今は冬だから外で食べるのは厳しい。
「そうね……。それじゃあ――」
 と、思いついた場所を言おうとした時、教室の扉の方から声がした。
「祐巳さん、志摩子さん。お昼一緒に食べない?」
 声がした方を見ると由乃さんがお弁当を片手に手を振っていた。
「あ、由乃さん。うん、今志摩子さんとどこで食べようか悩んでたとこなんだ」
「そうなの? だったら薔薇の館でいいんじゃない?」
 そう言うと由乃さんは先に薔薇の館に向かって行った。
「あ、由乃さん待って~。志摩子さんっ、急ご!」
 パッと見えなくなった由乃さんを、祐巳さんは急いで追いかけようとする。そして、あ
ろうことか志摩子の手を取って「早く」と急かした。
「え、祐巳さん。ちょっ……」
「由乃さん行っちゃうよ。早く早く」
 祐巳さんはそのまま志摩子の手を握って歩き出した。
(祐巳さんの手って温かい……)
 志摩子は祐巳さんの手に繋がれたままそう思った。

「あー。二人と一緒にご飯食べるのって久しぶり」
「そうだね。でも、由乃さん。令さまと一緒じゃないの?」
 いつも由乃さんは令さまと食べている。さすが従姉妹だけあって学年が違くても一緒。
「ああ、うん。今日は令ちゃん、部活の方で手一杯なのよ。何か忙しそうだったから遠慮
したの」
 学校なのにもかかわらず、由乃さんは令さまのことを「お姉さま」ではなく「令ちゃん」
と呼んでいた。注意する人がいないからだと思うけど。
「でも、いいなぁ。由乃さんは令さまといつも一緒で」
 祐巳はうらやましがった。祐巳のお姉さま、祥子さまではこうはいかない。
「祐巳さんも言えばいいじゃない。『お姉さま~、一緒にお昼ご飯いかがですか?』って」
「……それが出来れば苦労しないよぉ」
 祐巳の口真似をする由乃さんを見て、祐巳はうなだれた。私なんかが恐れ多くもあの祥
子さまにそんなこと言えるわけがない。……でも、どうしてだろう。最近祥子さまを見て
もそんなにドキドキしているわけじゃないのだ。慣れてきたのかな? と思った時、ふと
志摩子さんに視線を向けた。そう言えば志摩子さん、ずっと黙ったままだ。
「志摩子さん、どうしたの? さっきから黙ったままだけど……」
「え?」
 祐巳の言葉に志摩子さんは顔を向ける。
「何か心配事があるの? 私でよければ相談相手になるよ?」
「いえ、そうじゃないの。何でもないから気にしないで」
「祐巳さんの言う通りよ。今日だけじゃなくて、何か最近元気ないよね」
 それは祐巳にもわかっていた。でも、勘違いかもしれないって思っていたのだ。だって、
志摩子さん。そんな素振り見せてないし、いつだってにっこり微笑んでやさしい顔を見せ
ているから。
「本当に何でもないから」
「ホントに……?」
「ええ」
 志摩子さんはにっこり微笑む。やっぱり、この顔を見る限り、いつもの志摩子さんだ。
でも祐巳は志摩子さんのことで頭がいっぱいになっていた。

 ――失敗した。私は掃除中にそう思った。まさか私が悩んでいることを気付かれていた
なんて。私は祐巳さんと由乃さんの三人で、薔薇の館で昼食を取っていた。祐巳さんは由
乃さんと楽しそうに話をし、私はというとずっと二人の話を聞いているだけだった。だっ
て、話の内容は祥子さまのことだったから。祐巳さんが楽しそうに祥子さまのことを話す
と私の心はひどく痛む。ああ、この人はやっぱり祥子さまのことが……。だからさっきも
その会話に入れなかった。話に加わって、祐巳さんは祥子さまが好き、と認識してしまっ
たら自分の気持ちを否定することになる。
『心配事があるなら私が相談相手になるよ』
 あの時祐巳さんが私に言った言葉。うれしかった。些細のことなのに気遣ってくれる彼
女の気持ちが。でも、言えない。私の気持ちを伝えて今の関係が壊れて、嫌われてしまっ
たら……。壊れてしまうくらいだったら、いっそこのままの関係の方がいい。祐巳さんと
はこれからも『友達』としての関係のままで……。
「志摩子、手がお留守になってるよ?」
「え!?」
 突然背後から声を掛けられ、私は驚いて後ろを振り返った。
「お姉さま?」
「うん、正解。私はあなたのお姉さまだよ」
 私がつい疑問形で訊いてしまったからか、お姉さまは確認するようにそう答えた。
「珍しいね。志摩子が物思いにふけってるなんて」
「そう見えました?」
「うん。端から見ると悩んでるってわかる。元気ないし」
 由乃さんと同じことを言われ、私は苦笑した。まさか、そこまで顔に出ていたなんて。
「理由は……祐巳ちゃんかな」
「え!? どうして……」
 私はまた驚いた。悩みの種まで知られていたなんて思わなかったから。
「ん~? 何となくね。でも、志摩子が祐巳ちゃんを好きなら私は応援するよ」
「え?」
「当たり前でしょ? 志摩子は私の大事な妹。その妹の気持ちをむげにしないよ」
「でも、お姉さまも祐巳さんのことが好きなのでは……?」
 お姉さまが祐巳さんを好きなのは知っている。いつも、祐巳さんに抱きついているから。
嫌いな人にあんなことは普通しないだろう。
「……ああ。確かに私は祐巳ちゃんのこと好きだけど、でもそれはただの好き。私の場合
は祐巳ちゃんを抱きしめるだけのスキンシップをするのが好きなだけだよ」
 お姉さまはそう言ってやさしく微笑んだ。ああ、やっぱりお姉さまは他人の気持ちをよ
くわかっている。
「あ、でもそうすると祥子が問題だなあ……。私が祥子とくっつかないとダメかな?」
 お姉さまは真剣な顔をして悩んでいる。まあ、妹の気持ちを悪くさせないための、一種
のサービス精神だと思うけれど。
「ま、志摩子が誰かのことでここまでのめり込むんだから、いいことなんだと思うよ」
「そう、でしょうか……?」
「うん。今までの志摩子は誰かといたいって思ってるのに、その感情を表に出さなかった。
でもその志摩子が今、祐巳ちゃんという一人の人間にここまで気を使っている。すごい進
歩だよ」
 ……私はやっぱりお姉さまはすごいって思った。私たちは鏡のような存在だった。似す
ぎているからただ側にいてくれればそれでいい。ただそこに存在してくれればそれでいい。
でも、お姉さまは側にいるだけじゃなくて、私の気持ちまで見てくれている。知ってくれ
ている。私は、そんなお姉さまを誇りに思う。
「ありがとうございます。少しは気分も晴れました」
「あ、気づいてたの?」
「ええ。私の気持ちを押しつぶさせないためだってことくらいは」
 するとお姉さまは「ちぇー」と言って口を尖らせていた。
「でもま、本当のことだからいいか。……それと、きっと祐巳ちゃんは……――」
「え?」
「……んー。いや、何でもない。私が言っても意味がないから」
「?」
 お姉さまはそれ以上何も言わず、カラカラと笑っているだけだった。
「いいのいいの、気にしなくて。じゃ、そろそろ教室戻ろっか」
「え、ええ……」
 時計の針を見ると、もうSHRが始まりそうな時間だった。けど、結局お姉さまが何を
言おうとしたのかはわからなかった。

「志摩子さん、今日委員会ないよね? 一緒に薔薇の館行こ」
「祐巳さん」
 SHR後、志摩子は祐巳さんに声を掛けられた。
「え……っと、ダメ?」
「そんなことないわ。一緒に行きましょう」
 いつもの会話なのにどこか違和感がある。祐巳さんには不安を感じているように見える。
もしかしたら昼食のことが原因かもしれない。薔薇の館に行くまで祐巳さんは黙ったまま
だった。薔薇の館に着いたが、志摩子たちのクラスのSHRが早く終わったからか、部屋
には誰もいなかった。
「やっぱり、誰もいないね」
「ええ……祐巳さん、何がいいかしら?」
 志摩子が流しに向かって何を飲むか訊ねる。
「今日はアールグレイがいいかな……あっいいよ、自分で淹れるから」
「いいのよ、淹れさせて」
 志摩子がお願いすると、祐巳さんは「うん」と言って、席に座った。志摩子はカップに
紅茶を淹れ、祐巳に渡し自分も座った。
「……」
「……」
 しばらく二人は黙って淹れた紅茶を飲んでいたが、その沈黙を破って祐巳さんが声を掛
けた。
「ねえ、志摩子さん。やっぱり、元気ないよ。何かあったの?」
 祐巳さんは悲しそうな顔で志摩子に訊ねてくる。昼食での出来事を気にしているのだろ
う。
「祐巳さんの考えすぎよ。元気がないのだったらこんな風に笑えないわ」
 志摩子はそう言って、祐巳に微笑んだ顔を見せる。……祐巳さんに心配をかけさせない
ため、本当は無理していたけどいつものように微笑みを見せれば祐巳さんは自分の勘違い
だって思ってくれるだろう。しかし、今回はそうじゃなかった。
「嘘。志摩子さん、無理してる」
「え?」
「確かに志摩子さん笑ってるけどいつもと違うよ。目が悲しいって言ってるもん」
「!!」
 努めていつものように微笑んだつもりだったのに、無理だったらしい。反射的に俯いて
しまい、それがかえって祐巳さんに拍車をかけてしまった。
「ねえ、心配事あるんでしょ? 力になるから言ってよ」
 ……言えない。祐巳さんに関することなのに、それを本人に相談なんてできない。でも、
また「何でもない」って言ってもきっと祐巳さんは引かないだろう。だから少し言葉を悪
くして言った。
「祐巳さんには関係ないことだから」
 志摩子は自分で言って心を痛めた。関係なくなんてない。祐巳さんには私のこと、もっ
と知って欲しい。でも、自分の気持ちをさらけ出すことはできない……。
「関係なくなんてないよ!」
「ゆ、祐巳さん?」
 声を荒げて否定した祐巳さんに、志摩子はちょっと驚いた。
「関係ないなんてことあるわけない! だって、だって志摩子さんは私の大事な……」
「祐巳。何を騒いでいるの」
 祐巳さんが言い終わる前に、扉が開かれた。入ってきたのは祥子さまと紅薔薇さま、黄
薔薇さまの三人だった。
「あら、二人だけ? それで何で言い争ってるの?」
「いえ、何でもありません。ちょっとクラスのことで……」
「そう?」
 紅薔薇さまの質問に志摩子はそう答える。紅薔薇さまは納得したようで席に座り、他の
二人もそれぞれ自分の席に座った。少ししてから残りのメンバーも入ってきた。白薔薇さ
ま以外は。
『だって志摩子さんは私の大事な……』
 あの時、祐巳さんの言おうとした言葉。正直、ホッとした。最後まで聞かなくて。祐巳
さんにとって私は友人以外何でもないんだから。
「ヤホー。ごめん、遅れた」
 白薔薇さまはそう言って、悪びれることなくやってきた。
「ごきげんよう、白薔薇さま。で? 今まで何をやっていたのかしら?」
 紅薔薇さまが書類を目に通したまま訊く。微妙に声のトーンは低かったが。
「え? んー、ちょっと野暮用」
「また、下級生と戯れていたのかしら」
「さーねぇ? あ、志摩子。お茶ちょーだい」
 指名がかかったので志摩子は席を立って流しへ向かった。その時、祐巳さんと目が合っ
てしまったが志摩子は逃げるように視線を外した。
「? 祐巳。どうかしたの」
 祥子さまの声が入る。さすが妹のことに関しては鋭い。
「……いいえ。何でもありません」
「よそ見しないでちゃんと仕事なさい」
 祥子さまはそう言って祐巳さんを注意した。祐巳さんには悪いことをしたと思った。何
事もないいつもの風景なのに、志摩子の心には隙間風が吹いた。祐巳さんとのこと以外は
何事もなく終わり、皆そろそろ帰る支度をし始めた。
「祐巳。一緒に帰りましょう」
「……えっと」
 めずらしく祐巳さんが渋っている。やはり、自分とのことが原因なのだろうか。
「話したいことがあるから、優先してちょうだい」
「……わかりました」
 そう言われたら断るわけにはいかないと思ったのか、祐巳さんは素直に受けた。
「それじゃ、私も帰るかな~」
「ダメ。あなたは遅れた分の仕事してから帰って」
「ええ!?」
 紅薔薇さまは容赦なく白薔薇さまにそう放つ。
「そうね。いつも白薔薇さまだけサボっているのも面白くないし、たまには罰もいいんじ
ゃない?」
 黄薔薇さまは巻き込まれたくないからか、すでに扉の前まで移動していた。
「じゃあね、白薔薇さま。仕事はきっちりとね」
 令さまと由乃さんを連れてさっさと帰る黄薔薇さま。
「うっう、蓉子ぉ。手伝ってくれるんだよね」
「ダメ。私も先に帰るから」
「じゃあ、志摩子……」
「一人でやりなさい」
 ぴしゃりと言い放つ。きっと、下級生と戯れていたことに相当腹を立てているのだろう。
志摩子は手伝おうと思ったが、紅薔薇さまの怒りボルテージがかなり上がっていたので手
伝うとは言えなかった。
「うー……わかったよ。じゃあ、志摩子。お茶だけもっかい淹れて」
「はい」
 再び、紅茶を用意し白薔薇さまの側まで寄った時、耳元で志摩子にだけ聞こえるように
小さくささやいた。
「お御堂」
「え?」
「いいから。……そうだな。明日の朝にでも祐巳ちゃん誘って行ってみて。……じゃあ蓉
子、志摩子ごきげんよう」
 そう言うと、白薔薇さまは机に向かって仕事を始めてしまった。今のことを聞きたかっ
たがこの仕事を終わらせないと白薔薇さまは帰れないので、志摩子はそれ以上聞けなかっ
た。

「祐巳さん。ちょっといい?」
 次の日の朝、私は祐巳さんに声を掛けた。理由は昨日のお姉さまの言葉。
『明日の朝にでも祐巳ちゃんとお御堂に行ってみて』
 祐巳さんも、ということで志摩子はちょうど祐巳さんがいつもより少し早く来ていたの
で誘ってみようと思った。
「うん。私も志摩子さんと話がしたいって思ってたから。でも……ここじゃあ、まずいよ
ね?」
「ええ、そうね」
「どこで話そうか」
「ちょうど話したい場所があるの」
 私はそう言って祐巳さんと教室を出た。もちろん、向かうのはお御堂。
「お御堂? ……うん。誰もいないね」
 お御堂に着いて、祐巳さんは辺りを見回す。運良く、ここには誰もいなかった。
「え……と、志摩子さん何? 話って」
「いいの。祐巳さんから先言って」
 祐巳さんから話を切り出してきたが、私は祐巳さんの方を優先させた。別にここに来た
のはお姉さまが行くように言っただけだから。
「……うん。あのね……」
 祐巳さんは不意に言葉を詰まらせた。
「……祐巳さん?」
 祐巳さんを見て私は首をかしげた。どうしたのだろう。祐巳さんは話があるから、と言
っていたのに。しかし、祐巳さんは私の想像以上の言葉を紡いだ。
「志摩子さん。……私、志摩子さんのこと……好き」
「え?」
 シマコサンノコト、スキ。私の頭の中で反すうした。
(どういうこと……?)
 私は祐巳さんが好き。でも、祐巳さんは祥子さまが好きで……。その祐巳さんが私を好
きと言って……。私はしばらくブツブツ独り言を言った。堪らず祐巳さんは私に声を掛け
た。
「あの? 志摩子さん?」
「……え?」
「大丈夫? ちょっと突然だったかな」
「いえ……」
 私は否定したが十分驚いた。
「でも、祐巳さんの好きな人は祥子さまでしょう?」
 祐巳さんの好きが私と一緒なのか、私は確認したかった。勘違いや同情なんてまっぴら
だったから。
「うん。好きだよ」
 ほら、やっぱり。私の気持ちとは違う。自分の気持ちを伝えられればどんなに幸せか。
私は心の中でそう思った。
「でも、祥子さまへの好きはただの憧れだったの」
「? どういう……こと?」
「志摩子さん。聞いてくれる? これから私の話すこと」 
 祐巳さんはそう言ってきたので、私はうなずいた。こんなに真剣で私に向かって話す祐
巳さんを無視なんてできないから。
「昨日、祥子さまと帰った時、祥子さま言ったの。「あなたは私のこと好き?」って。私、
もちろん好きですって言った」
「……」
「祥子さまは喜んでくれた。でもね、その後「あなたの心の中では私はちゃんと見ていな
い」って。そう言われたんだ。私は否定したけど……祥子さまは最後にこう言ったの。「あ
なたの本当に好きな人は他にいる」って……」
「本当に好きな人……?」
 祐巳さんは小さくうなずいた。
「私ね。最近、祥子さまのこと、本当に好きなのかなって思ってたんだ」
「え?」
「確かに祥子さまは好きだけど……何か違うなって。祥子さまに言われて家に帰ってから
ずっと考えてた」
 一息して祐巳さんは続ける。
「……私は志摩子さんが好き。山百合会に入って私の手助けしてくれて。いろいろ気に掛
けてくれて。いつのまにか私、志摩子さんのことがすごい好きになっていたんだよ」
 そう言われた後、私は涙を流していた。けど、それを見た祐巳さんは少し悲しげな目を
してこう言った。
「ごめんね。迷惑……だよね」
「違う! 違う……の。うれしくて……」
「え?」
 祐巳さんはきょとんとした顔で首をかしげた。
「私もずっと……祐巳さんのことが……」
「志摩子さん?」
 私は涙を流したまま言葉を続けた。
「誰のことでも一生懸命で、そんなあなたに私はいつからか惹かれていた。でも、あなた
の側には祥子さまが……いて。そ……んなあなたの心をっ、傷つけたく、ないから、私は
……っ!」
 涙声になって最後の方はしゃくりあげて言葉にならなかった。ただただ、涙が出てきた。
「志摩子さん……」
「祐巳……さんっ」
 祐巳さんは私をぎゅって抱きしめてくれた。やさしくやさしく包み込むように。しばら
くして私は祐巳さんから離れ、自分からも言った。
「祐巳さん。私も祐巳さんのこと、好きだった――」
 その刹那――。
「きゃ!? ……何? これ……」
「すごい。きれい……」
 ライトアップされたお御堂は、まるで桜吹雪のようでとてもきれいだった。同時にこの
仕掛け人が誰なのか私にはわかった。
(もしかして、お姉さま……)
 昨日、お姉さまが薔薇の館に遅れたのはこれが理由だろう。どういう仕掛けかわからな
いけれど、よくできている。
(ありがとうございます、お姉さま……)
 私は心の中でお姉さまにお礼を言った。つい、うれしくてくすくす笑ってしまった。
「? 志摩子さんどうしたの?」
「いえ、何でもないの」
「そう? ……あ! 志摩子さん! もう、教室戻らないとっ」
 祐巳さんは慌ててお御堂を出ようとしたが、私は祐巳さんを呼び止めた。
「……ね、祐巳さん」
「ん? 何……」
 私は祐巳さんが振り向いた時、すかさずキスをした。体勢が体勢なだけに、すぐ離れて
しまったけど。
「~~志摩子さん……」
「告白は祐巳さんからされてしまったから。今度は私の番」
 私はそう言うと、祐巳さんの手を引いて教室に向かう。
「行きましょう。授業、始まってしまうわ」
「うん……」
 祐巳さんは真っ赤になって私の手を握り返してくれた。
「今日のお昼は二人きりで一緒に食べましょ? せっかくだからここで」
「うんっ。食べよう!」
 私の言った言葉に、祐巳さんはうれしそうに答えてくれた。そう、昨日はここで食べら
れなかったから。私はいつものように微笑んで、にっこりと祐巳さんに笑い掛けた。そし
て、その握り返した手の温もりを私は決して忘れない。

 ――そう。祐巳さんは私にとってマリア様なんだから――……。

――あとがき
 マリみてSS第二弾。祐巳×志摩子っぽいけど、結局最後は志摩子×祐巳、な、お話を
お届。それにしても何か文章、変。特に告白シーン。納得いかないなー。本当はもっと志
摩子が今まで隠してきた気持ちとかを祐巳ちゃんに言うはずだったのに、なぜかあっさり
終わってしまった。ってか、何でこう第三者にいいとこ持っていかせるかなあ(祥祐の時
の蓉子みたいに)。しかも公認だし。祥子諦めてるし。う~納得いかない。
 んでもって問題のライトアップ。ありゃ無理だよね。どんな仕掛けか私にもわかんない
もん。音声認識~みたいなモンがなきゃ絶対、無理無理(某ミニ四駆アニメじゃないんだ
し)。でもま、雰囲気ってことで。何てったって聖さまは、何でもできちゃうスーパーマン
なんですから(笑)。さ、気にしないでください。って……ああっ、石投げないでっ!! そ
して次の志摩子×祐巳は『志摩子と祐巳の仲を引き裂く人、現る!?』な感じのSS(引
き裂く人が誰かは秘密)かな。では、また。
          2003・06・22(SUN) Kazuki Sidoh.
プロフィール

ひかわ

Author:ひかわ
【ひかわ】

・適度に虚弱なSS書き

作品については原作者様・出版社様・他関係者関係企業とは関係がありません。
内容閲覧等(百合・同人等)につきましては、全て閲覧者の任意の為一切の責任を負いません。


また、掲載されている文章の転載・加工・二次利用はご遠慮ください。

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