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側に……

側に……

司堂和姫様
「ゆ~みちゃん。今日も可愛いね」
「うきゃあ!?」
「あは。怪獣じゃないけど、相変わらず面白いね」
 二人の他には誰もいない薔薇の館で、聖はいつものように祐巳ちゃんを抱きしめた。ぬ
いぐるみのように温かくて、ずっと抱きしめていたい。
「むー、聖さま。急に抱きつくのは止めてください。ビックリしますから」
 祐巳ちゃんはちょっと拗ねた顔でそう言う。確かに聖はいつもより早くここに来てみた
ら、たまたま祐巳ちゃんを見つけたので、いつものように抱きついてしまったのだ。それ
よりそんな顔されるとこっちは鼓動を抑えるのに必死になるんだけどな。
「ん~? そんなこと言わないでよ。祐巳ちゃんが可愛くてやってんだから。でも、やっ
ぱりいいな。祐巳ちゃんに名前で呼ばれると」
 聖と祐巳ちゃんの他に誰かがいる時は、当たり前だが祐巳ちゃんは『聖さま』ではなく
『白薔薇さま』と呼ぶ。けど、二人っきりの時に名前で呼ぶのは特別だったから。
「祐巳」
 聖は呼び捨てで彼女を呼ぶ。祐巳ちゃんもそれを察したのか、聖と向き合ってぎゅっと
抱きついてきた。
「やっぱり、祐巳を抱いてると気持ちいいね」
「そうですか?」
「うん……」
 本当は学校ではこうやって大胆に抱きつくことはできない。理由は簡単。こうやって自
分たちが愛し合っているのは非公認だから。皆に言ってもいいが絶対に認めない者もいる
だろう。いい例が祥子と蓉子。祥子は祐巳ちゃんの姉であるからわかるけど、何で蓉子ま
で……。たぶん、自分たちの関係に気づいているのは江利子や志摩子辺りだろうが、何も
言ってこない。まあ、ありがたいことだが。
「……いさま。聖さまってば」
「え? な、何? 祐巳ちゃん」
「あ、ひどい。やっぱり、聖さま、上の空で私のこと見てない」
 いつのまにか考え事に走って、上の空だったらしい。祐巳ちゃんに怒られてしまった。
「ごめんごめん。許してよ」
 聖はそう言って祐巳ちゃんの頭を撫でた。しかし、あんまり満足しなかったようでぷい
っと目をそらしてしまった。
「もう、いいですよ」
 祐巳ちゃんはそう言うと、私から離れた。そして、空になったカップを持って流し台の
方に向かう。聖はちょっとむっとして、再び祐巳ちゃんを後ろから抱きしめた。
「祐巳ちゃん。ちょっとひどいんじゃ……」
「何がですか? 白薔薇さま」
 と、抗議の声。だが、これは祐巳ちゃんが言ったのではない。聖が扉の方に振り向くと、
祐巳ちゃんのお姉さまである祥子が立っていた。
「あ、お姉さまっ」
「げっ、祥子」
「白薔薇さま。祐巳にあれほどかまわないでくださいと申しましたのに、全然聞いていら
っしゃらないんですね」
 明らかに敵意の目で祥子は聖を睨む。祥子に睨まれても特に害はないので、聖は気にし
なかった。
「いいじゃん。祐巳ちゃんは祥子のものじゃないでしょ? だったら抱きついたって文句
ないじゃない」
「あら、聖。可愛い子抱きしめてるのね」
 再び、扉から別の声がする。見ると、祥子の後ろに蓉子が立っていた。……そりゃあも
う、にっこり笑った般若のような顔で。
「や、やあ。紅薔薇さま……。ごきげんよう……」
「ごきげんよう、白薔薇さま。で? いつまで祐巳ちゃんを抱きしめているつもりなの?」
 姉妹そろってにっこりと笑う。背後にはものすごいオーラを背負って。さすがにこれ以
上は何をされるかわからないので、仕方なく聖は祐巳ちゃんから離れた。
「お姉さま、紅薔薇さま、ごきげんよう。何を淹れましょうか?」
 聖が離れたので、祐巳ちゃんは二人に振り向いて飲み物を催促する。祥子なんかその顔
見ると、さっきとはまったく意味の違う笑顔を作っていた。
「ごきげんよう、祐巳。そうね……ストレートティー淹れてちょうだい」
「私はダージリン。祐巳ちゃん、気をつけなさい。狼は可愛い赤ずきんを見たら、何する
かわからないんだから」
 言うまでもなく、狼は聖で赤ずきんは祐巳ちゃんだろう。しかし、失礼な。狼って童話
に出てくることが多いけど、いつもヤギとかブタとか誰かれ構わず襲う役。それじゃあ私
は節操ないみたいじゃないの。などと、聖は心の中で思った。きっと「その通り」って皆
に言われそうだから敢えて口には出さないが。
「そう、ですね。これからは気をつけます」
 蓉子の言葉に祐巳ちゃんは少し笑ってうなずいていた。聖は少なからず、ショックを受
けた。確かに、自分たちは好きだってことを公の場に公表してないが、こう言われるとち
ょっとショック。何か愛されてないみたいで。それからしばらくして、江利子と志摩子が
やってきた。令と由乃ちゃんは家の用事で来ないらしいので、二人が来てすぐ会議が行わ
れた。でも、聖は祐巳ちゃんのことばかり考えてて、会議の内容なんて頭に入らなかった。

「じゃあ、そろそろ帰りましょうか」
 会議も一段落して、蓉子がそう言った。他の皆も帰りの仕度を始める。
「祐巳。帰りましょう」
「あ、すみません、お姉さま。私、ちょっとこの後用事があるので先に帰っててもらえま
すか?」
 祥子の誘いに祐巳ちゃんは断った。最初は疑問を浮かべていたが、祐巳ちゃんが本当に
申し訳なさそうに言ったので、祥子も仕方なく承諾した。
「……わかったわ。じゃあ、祐巳。ごきげんよう」
「ごきげんよう、お姉さま」
 そう言った二人を見ていたら、蓉子に声を掛けられた。
「? 白薔薇さま、帰らないの?」
「ん。もうちょっとここにいるわ」
 聖は祐巳ちゃんと話がしたいがために、ここに残ることにした。しかし、勘の鋭い蓉子
はジト目で聖を睨んだ。
「……祐巳ちゃんにちょっかい出すのかしら?」
(げっ。何て鋭い)
 蓉子の言葉に館を出ようとした祥子がピタッと止まる。聖は悟られないように、努めて
冷静に否定した。
「違うって。ちょっと考え事したいから」
 蓉子は納得がいかないという風に見つめていた。しかし、事を解決したのは祐巳ちゃん
だった。
「紅薔薇さま。私のことは大丈夫ですから、お姉さまと一緒にお先にどうぞ」
「けどね……」
 蓉子は祐巳ちゃんに向けていた視線を再び聖に向ける。聖は合わせないように明後日の
方を向いた。
「本当に平気ですから。何かあったら報告します」
 祐巳ちゃんの言葉に納得したのかわからないが、蓉子は「そう」と小さく呟いて祥子の
方に近寄った。
「祥子。そういうことだから一緒に帰りましょう」
「ですが、お姉さま……」
「大丈夫よ。『私の』聖だから。それに、祐巳ちゃんに何かあったら聖の息の根を止めれば
いいことよ」
 さり気なく蓉子はそう言う。ってか、私はいつあんたの物になったんだ。それに殺す気
まんまんだし。
「さ、帰りましょ」
「わかりました。……皆さまお先に失礼します。ごきげんよう」
「じゃあ、私たちは先に帰るから。ごきげんよう」
 蓉子と祥子は一緒に薔薇の館を出て行った。
「私たちも帰るわ」
 それまで静かだった残りの二人も立ち去ろうとしていたが、志摩子は祐巳ちゃんに近づ
き、江利子も聖の側に寄って小さく囁いた。
「相変わらずだけど、気をつけなさいね」
「何が?」
「あの二人。蓉子はあなたを、祥子は祐巳ちゃんのこと好きなんだから」
 ……何を今更、と聖は思った。確かに聖は蓉子が好きだ。けど、恋愛感情としてではな
い。もちろん、向こうが自分のことを本気で好きなのはわかるが、それでも聖は祐巳ちゃ
んが好きなのだ。聖は祐巳ちゃんのことを本気で愛している。蓉子が聖に抱いている感情
と同じに。祐巳ちゃんも聖の感情に比例しているだろう。
「まあ、私は聖が不利な分、あなたの味方だけどね」
 聖はその言葉に目を丸くしたが、その表情に江利子は顔をしかめた。
「何よ。その顔は」
「いや、だって。江利子ってこういうことは第三者として影でひっそりと楽しむじゃん。
その江利子がそんなこと言うなんて……」
 まったくもって信じらんないって言うと、江利子はむすっとして抗議した。
「あのね……あなた、どういう風に私を見てるの?」
「取りあえずデコチン……った!!」
 ゴンッ!! 江利子は思いっきり聖の頭を殴った。その様子に、祐巳ちゃんと志摩子は
一瞬こっちを見たが、また二人で話を進めていった。
「……いったー……。今、本気で殴ったでしょ。何もそんなに思いっきり殴らなくてもい
いじゃない」
 涙目になって聖は殴られた頭を擦った。殴った江利子はというと、手をグーのまま、わ
なわなと震わせていた。
「怒るわよ。……まったく。けど、実際問題、どうにかしなきゃ。本当に祐巳ちゃんが好
きなら尚更ね」
「わかってるよ」
「そうね。……まあ、あなたは心配ないでしょうね」
「……どういう意味よ」
 江利子の意味深な言葉に、聖は少し睨みつけるように江利子を見た。
「祐巳ちゃんは優しいってこと。……じゃあ、先に帰るわ。ごきげんよう」
 確信をつかせない言葉を残して、江利子はきびすを返す。見ると志摩子の方も話が済ん
だようで、江利子と一緒に部屋を出て行った。聖は二人がいなくなって、すぐに祐巳の側
に寄り、祐巳を抱きしめた。
「聖さま」
 祐巳も聖を抱きしめ返した。
(祐巳は私のこと、どう思ってんだろう……)
 祐巳を抱きしめながら、聖はそんなことを思った。言葉では好きだ、愛してる、なんて
簡単に言えるから。今まではその言葉を言われるだけで安心していたが、なぜだか今はす
ごく不安に感じる。だから、聖は祐巳の本当の心が訊きたくなった。
「ねえ、祐巳」
「何ですか? 聖さま」
「祐巳は……私のこと、本当に好き……だよね?」
「は?」
 祐巳は何を言っているのかわからないって顔をした。
「何言ってるんですか? そんなこと、今更言わなくたって……」
「でも、祥子のことだって好きでしょ?」
「確かにそれは……そうですけど……。でも、聖さまと祥子さまの好きは全然違いま
す!!」
 そう言ってくれる祐巳の言葉はうれしい。祐巳の祥子に対する『好き』は、聖の蓉子に
対する『好き』と一緒だから。でも、同時に不安になる。いずれ、祐巳が祥子のことを『今
の私に向けている好き』になってしまったら……。そう思うとすごく怖い。また、好きな
人を『失いたくない』から。
「聖さま、どうしてそんなこと聞くんですか?」
「それは……」
 聖は答えられなかった。祐巳は訝しげに顔をしかめるとまた口を開いた。
「私のこと信用してないんですか?」
「そんなこと、ないよ……」
 力ない言葉に祐巳は聖に向かって叫んだ。
「っ! 聖さまのバカ――!!」
「うわっ!」
 その声の音量に、聖はつい目を瞑って耳を塞いでしまった。再び目を開くと、もう祐巳
の姿はそこになかった。江利子が言っていたように、祐巳は優しすぎる。きっと、祥子に
自分たちの現状を言えないのはその性格故だから。わかっていることなのに。祐巳が辛い
ってことはわかっていることなのに。それなのに祐巳に訊いてしまった。祥子を裏切れな
いということを認識させてしまった。それは自分にとっても辛いこと。わざわざ自分の傷
みを認識することもないだろうに。
「ごめん。祐巳ちゃん……」
 聖は呟いたが、その声は祐巳に届かなかった。

「聖さまのバカ……」
 祐巳は自分の部屋でそう呟いた。
「私は聖さまのことが好きなのに。お姉さまの好きとは違うのに。どうしてわかってくれ
ないの」
 せっかく、聖さまと二人っきりになれるよう紅薔薇さまや祥子さまを追い出し……もと
い先に帰らせたのに。その聖さまが不安にさせること言うなんて。
「志摩子さんの言ってたことも嘘に感じちゃう」
 志摩子さんの言っていたこと。それは帰り間際のことだった。紅薔薇さまと祥子さまを
説得させ、先に帰った後に、残っていた黄薔薇さまと志摩子さんも帰ると言った。しかし、
黄薔薇さまは聖さまに、志摩子さんは祐巳のところまでやってきて、そっと囁いた。
「祐巳さん。お姉さまのこと、怒らないでね」
「え?」
「お姉さまは祐巳さんのこと、本当に好きなんだから。祐巳さんが負けないくらいに」
「ええ!? し、志摩子さん!? な、何で知っているの!?」
 祐巳は驚いた。聖さまとのことは内密なはずなのに、どうして知っているのだろうか。
「ふふっ。祐巳さんのことだもの。よくわかるの」
「そっか」
 志摩子さんに知られていたのか。もしかして、祥子さまたちも……。
「大丈夫よ。私と黄薔薇さましか気づいていないから」
 しっかり祐巳は百面相をしていたらしい。何も言わなくても志摩子さんは安心の言葉を
くれた。それにしても、黄薔薇さままで知っているってことはきっと目を輝かせて楽しん
でいるのかなあと思っていたら、不意にゴンッ!! と言う鈍い音が聞こえた。その音に、
祐巳はもちろん、志摩子さんまで振り向いた。
「相変わらず、お姉さまは一言多いのね」
 志摩子さんはそう言って、再び祐巳の方に向き直した。
「でも、祐巳さんもお姉さまに負けないくらい、お姉さまのことが好きなんでしょう? だ
から……がんばって」
 志摩子さんはそっと祐巳の肩に手を置いて、やさしく微笑んだ。
「うん。ありがとう。志摩子さん」
 そして、志摩子さんは扉の前まで足を進める。ちょうど、聖さまたちも話が終ったのか、
黄薔薇さまも扉の方に足を進めて二人は一緒に帰った――。
「本当に好き……か」
 祐巳はそう言うと、ベッドに入って寝る準備をした。
「わからないよ。聖さま」
 そう呟いて、祐巳は目を閉じた……。

 ……? ここは? ああ、これ、きっと夢だ。何となくわかるんだよね。これは夢って。
(祐巳)
 ? ……聖さま? どうしたの? どうして、そんな悲しい顔をしているの?
(ごめん祐巳。もう、祐巳とは……)
 え?
(祐巳とはもう、会えない……)
 もう会えないって……どういうこと? ねえ、聖さま。どうして!?
(私……蓉子が好きなんだ。だから、祐巳……さようなら)
 っ!? 待って!! 聖さま、置いて行かないで!! 私が怒ったから? 私が冷たく
したから? ねえっ、聖さま! っ……聖――!!

「――っ!?」
 祐巳は目を覚ますと、がばっと起き上がった。
「……ゆ、め? ホントに……?」
 本当にさっきのは夢なんだろうか……。夢を見ていた時はそうだって認識していたけど
……。でも、もう。本当にもう、聖さまに会えないようなそんな怖い夢。だから、すごく
不安になった。
「聖さまぁ……」
 祐巳は愛する人の名を紡ぐ。しかし、その言葉を返してくれる人はここにはいない……。

「江利子の奴。一体何なんだろ?」
 翌日の昼休み、私は薔薇の館に向かって行った。ついさっき江利子が私の教室に来てこ
う言ったのだ。
『昼休み。薔薇の館に行って』
 と。
「薔薇の館で何があるの。こっちは祐巳ちゃんのことで頭がいっぱいだって言うのに」
 結局、祐巳とはまだ仲直りしていない。今日は朝早くから来たのに会えなかった。たぶ
ん、私よりも早く来ただけだと思うけど。
「祐巳ちゃん、私のこと嫌いになっちゃったかなぁ」
 そう考えるとすごい不安になってきた。取りあえず気持ちを落ち着かせるために、足早
に薔薇の館に向かった。薔薇の館に着いていつもの部屋の前まで行くと、誰かがいる気配
を感じた。
(んー? 誰かいる……)
 戸惑っていても仕方がないので、扉をゆっくり開けた。すると、そこには――。
「祐巳ちゃん?」
 そう、そこには祐巳がいた。
「……せ、いさま?」
 祐巳は私を見て、ホッとしたようなどこか不安なような、そんな顔をしている。
「祐巳ちゃん」
 私は祐巳の名前を呼んで座っている彼女に近づいた。
「聖さまぁ」
 祐巳は泣きながら私に抱きついてきた。私は驚いたが、すぐに祐巳を抱き返して頭を撫
でた。祐巳はその間も、「聖さま、聖さま」って私の名を呼んでいた。しばらくして祐巳は
落ち着きを取り戻したので、私は静かに声を掛けた。
「どうしたの。そんなに泣いて」
 私の言葉に祐巳はポツリと呟いた。
「……今日の朝ね。怖い夢、見たの……」
「夢?」
 祐巳は小さくうなずくと私を抱きしめてきた。小刻みに体が震えている。
「そんなに怖い夢だったの?」
 私は夢でそんなに怖がることないと思った。でも、祐巳の言葉にその考えは改められた。
「だ……て、聖さまが……どっか、行っちゃう夢、だったんだもん……」
「え?」
「もう……聖さまと、二度と会えなくなりそうで……怖かった」
 祐巳は私に廻している手にぎゅっと力を入れた。……二度と会えない。私の脳裏にある
人物が浮かんだ。栞。彼女とはもう二度と会えない。いや、会わない方がいい。そう決め
た。でも、今私の目の前にいるこの子と栞は違う。『二度と会えない』なんて辛いこと、こ
の子とはできない。だから、私は言った。
「大丈夫。私はずっと、祐巳と一緒だから」
 祐巳は泣きはらした顔で私の方を向いた。目に涙がたまっていたので、私は指ですくっ
てあげた。
「ホントですか?」
「うん。本当。私が祐巳に嘘言ったこと、ある?」
 祐巳はしばし考えた後、首を横に振った。
「セクハラとか自分に自惚れていたりっていうのはありますが、嘘を言ったことは確かに
ないです」
「……最初のは余計」
 私は祐巳の頭をコツンと軽く叩くと、祐巳は「えへへ」と笑い掛けた。
「うん。やっぱり祐巳は笑ってる方が可愛いよ」
 私は祐巳にキスをした。深く求めるように。深く愛するように。
「祐巳……」
「ん……せ、い……」
 祐巳は私の首に腕を廻して抱きつく。私も祐巳の腰に手をあて、引き寄せる。一度身体
を離して、祐巳を見つめてこう言った。
「祐巳。私はずっと側にいるから。ずっと側にいて離れないよ。だから、安心して」
 私の言葉に祐巳は「うん」とうなずいた。私は祐巳の頬に手をやり、小さく微笑んだ。
「志摩子さんに迷惑かけちゃった」
 聞くところによると、祐巳は今日ずっと落ち込んでいたらしい。それを心配した志摩子
が江利子に相談し、そして私のところに来たのだ。きっと不安で祐巳ちゃんは私に会うの
は避けるだろうと思って。二人には感謝しなくては。
「……聖さま、ごめんなさい」
「んー? 何が?」
「何か私一人で怒って、聖さまに嫌な気分にさせちゃって……」
 ……ああ、昨日のことか。まあ、上の空だった私も悪いし、祐巳の気持ちをわかってて
あんなこと訊いたのが原因ってのもあるんだから、そんなに気にすることないんだけどね。
「本当は私の方がすごい不安だったんですよ?」
「え?」
「聖さまは本当に私のことが好きなのかなって……」
 祐巳はそう言うと、少し自嘲気味に笑った。
「紅薔薇さまが聖さまのこと、好きなのは知ってる。紅薔薇さまはきれいだし、人当たり
もいいから本当はどうなんだろうって。聖さま、昔「妹を選んだのだって、顔で選んだだ
けって人を私は知っている」って言ってましたよね。だから、聖さま本当は……」
「それ以上言ったら祐巳でも怒るよ?」
 私は少し強い口調で、祐巳の言葉の先を遮った。
「確かにさ、私は昔、そう言ったけど……。でもね、結局はその人、顔だけを選んでたん
じゃなかったんだ」
「え?」
「顔だけじゃなくて本当に相手の本質も好きだったんだって。まあ、それを言わなかった
のは、相手に負担をかけさせないための単なる方便らしかったけど」
 私はお姉さまの顔を思い出した。本当にお姉さまには感謝している。あの時、確かに蓉
子も私のことを本当に心配してくれたけれど……。やっぱり、蓉子は親友として好きなだ
けだから。
「だからね。私は祐巳が好きなんだよ。わかった?」
「ホントですか?」
 祐巳は釈然としない感じで首をかしげた。まだ納得してくれないのかなあ……。でも、
上目遣いで私を見てくる祐巳がとても可愛くて。私は祐巳の耳元で囁いた。
「ね、祐巳」
「何ですか?」
「愛してる。そして、ずっと祐巳の側にいるよ」
 私は心をこめて言った。祐巳を愛してる、側にいる、と。祐巳はその言葉に一瞬、きょ
とんとしたが、すぐにっこりと笑った。
「私も……聖のこと好き。ずっと、ずっと側にいる!」
 祐巳のその笑顔と『聖』と言う言葉、そして『ずっと側にいる』という言葉にうれしく
思い、私は再び祐巳の唇に自分の唇を重ねていった。

 ――言葉は上辺だけの物かもしれない。でも、本当に心から言えばそれはきっと大きな
呪文になる。だから、私はその言葉を心に刻もうと思う。私は祐巳の側にいて、決して離
さない大切な恋人ということを――。

――あとがき
 なんじゃこりゃ、な、マリみてSS第三弾。う~ん、江利子いい人だ。やっぱり誰かに
背中を押してもらうのが、私の信条らしい。んー、途中は痛い話だけど、結局最後はラブ
ラブ、かな? キスシーンがあればラブラブなんです! 微妙なとこだけど。結構、聖さ
ま視点が多かった。最後のセリフは意味わかんないけど。あーこっぱずかしい。令と由乃
は全然出番ない(泣)。由乃祐巳ではいっぱい出ると思うけどね。
 マリみてで使ってるタイトルは、話の中で使用されてるのばっかです。英語はカッコイ
イけど考えるのめんどいから。題名考えれば話も思いつくし。次はどうしようかなー。取
りあえず内容は『危険なおでかけ。二人のドキドキお買い物』かしら? うわっ、ダサ!!
          2003・06・22(SUN) Kazuki Sidoh.
プロフィール

ひかわ

Author:ひかわ
【ひかわ】

・適度に虚弱なSS書き

作品については原作者様・出版社様・他関係者関係企業とは関係がありません。
内容閲覧等(百合・同人等)につきましては、全て閲覧者の任意の為一切の責任を負いません。


また、掲載されている文章の転載・加工・二次利用はご遠慮ください。

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